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わたフク。航海日誌

難病患者の医療費負担案

 
 
みなさま、大変ご無沙汰しております。

ひと足お先に「わたしのフクシ」を卒業し、悠々自適の隠居生活をおくっていたのですが、藪から棒に難病患者の「命綱」である医療費助成制度が大変なことになってまいりました。タイトルからして漢字ばっかりなところに、余裕のなさを感じとってね。

大野さんやせちろうさんをはじめ、Twitterを見ている方には「大変だ」ということはなんとなくわかるかもしれません。ただ、中には「なんかようわからんけど大変や~」という方もいらっしゃるかもしれないので、本日、平成25年10月28日現在、何がどうなっているのかについて、ちょっと知っていただきたいと思い、頼まれてもいないのに緊急復活です。

【マニア向け注】
本稿において「難病」とは、「特定疾患」のみを指す趣旨ではありません。「治りにくくて、医療のサポートがないと生存や生活が危うい病気」を指します。
 
 
● 難病患者にとって、医療とは

難病と一口に言っても、筋・神経系疾患で運動機能に障害が出たり、内分泌・代謝系疾患(私が罹患している「下垂体機能低下症」とか、1型糖尿病とか)のように「尋常じゃない疲労」によって家事もできなくなったりとか、病気によって何に困難が出るかはさまざまです。ただ、多くの難病は、「薬などの医療的サポートを継続して受けることにより、症状を抑え、通常の生活がおくれるようになる。」という点で共通しています。

逆に言うと、医療的サポートがないと、寝たきりになったり、症状が進行したり、下手をすると真っ逆さまに死んでしまったりします。私の場合も、「手元に一切なくなったら3日くらいで脱水症状で死ぬだろうな」という薬があります。おちおち災害にもあえないよ。

私たちの何気ない日常生活は、医療的サポート、ま、代表的なのは「薬」ですが、こういったものに支えられています。すごく、頼りないです。

つまり、難病患者である私たちにとっての医療は、たまに病気を治すためのものではなく、水や空気のように、なくてはならないものです。
 
 
● 難病患者をとりまく現在の医療費支援制度

さて、現在、難病患者を医療的に支える制度は、シェアを別にするといろいろあります。

なくてはならない、そして一生死ぬまで欠かすことのできない医療のためにはお金がかかります。なので、さすがに国としても「勝手にがんばって払え〜」というわけにはいかないので、現在は主に以下の4つの制度が存在します。

★ 日本に住んでいたらとりあえず全員該当するもの

1 公的医療保険制度
要するに、「原則3割負担」という、全員加入しているアレです。

2 高額療養費制度
対象:医療保険加入者であればだれでも
内容:自己負担部分の月額上限を定める(標準的な世帯で8万100円/月)
公的医療保険制度によって3割負担で治療をしていても、いきなりそんなの払えって言われてもムリっすよ!というような金額になることがあります。だからといって治療をしないと死んでしまうこともあるわけですから、月当たりの自己負担の上限が、標準的な年収の世帯で、原則として8万100円(所得、年齢によって増減アリ)と決まっています。
厚生労働省のページはこちら

★ 障害者手帳を持っていたら適用されるもの

3 自立支援医療(更生医療)
対象:知的障害者、精神障害者、身体障害者(一部の内部障害含む)
内容:原則1割/年収に応じて自己負担部分の月額上限も設定(最大2万円)
これは、身体障害(内部障害)の場合、人工透析やHIVなどに適用があります(更生医療)。
自立支援医療の場合は、「原則1割負担」となります。ただ、生活をする上で継続して「心身の障害の状態の軽減を図」るための医療なので、「お値段が高くて使えません」となっては困ります。そこで、もっとも所得区分が高い人でも、毎月の負担の上限額は2万円に抑えられています。
厚生労働省のページはこちら

★ 障害者手帳をもたない難病者のうち・・・

難病患者でも、障害者手帳を持っていればいいですが、全体としてそれほど多くはありません。
手帳を持っていない人にとっては、国が指定する56個の「特定疾患」という医療費助成制度があります。

4 特定疾患
対象:国(厚生労働省)が指定する56疾患
内容:年収に応じて負担上限額が0円〜11,550円(外来の場合)
そして、難病の真打ち、「特定疾患」です。これは、「せいどのたにま(中)」でもご紹介しましたが、国が指定した疾患(現在は56個)の患者の場合、所得に応じて月額の負担は0円~11,550円となります。ずいぶん優遇されているように見えますが、…優遇されています。はい。(否定できない人)。
 
 
●「難病対策制度の改革」

実は、①から③と異なり、この④特定疾患制度だけ「法的根拠」がないのです。

一応、「なんのための制度か」を記した「難病対策要綱」という根拠はあるんですが、これは「法律」ではありません。このため、位置づけがちょっとあやふやで予算も取りづらく、いつもいつも予算不足に悩まされていたようです。

また、法律できちんと立てつけた制度でもないので、「なんでこの病気が特定疾患なのか」とか、「どうやって選んでいるのか」などがさっぱりわからないという、役割の重要性のわりに相当カオスな制度でした。選抜基準がよくわからない上に、難病の数って数千もあるとか言われているのにたったの56しか指定しないのです。簡単に治らない病気を抱えている多くの人たちにとって、特定疾患制度に対する釈然としない気持ちは山のごとしでした。

そ・こ・で! 一度きちんと制度を整理し、法制化しよう!ということで、大改正作業がずーっと進んでいたのです。いい改革ですね〜。
 
 
● 平成25年10月18日、それは突然やってきた

これまで、厚生労働省の中の「難病対策委員会」というところで、30回以上も審議が重ねられてきました。その中でやれ「中間報告」とか「提言」とか、要所要所で「こういう方向で改革するね」という報告書は出されていましたが、患者たち最大の関心事である「どの病気が」「いくら位の」負担になるのかについての具体的な数字はなっかなか出てきませんでした。

ところが、平成25年10月に入ると急に具体的な負担額発表の気配が出始め、18日にやっと開示されました。その負担がこれです。

制度概要

厚生労働省の資料から引用)

よ、要するに

1 事実上、特定疾患という制度はなくす
2 国が指定した病気は3割負担である医療費を全員2割負担にする
3 それでも高額すぎて大変だから、所得に応じて上限を定める

ツイッターでは、みんな、これを見て「年収370万円の人に毎月4万4000円も払わせるなんて!」と言っているのですね。
 
 
【 ひどさその1 】 高っ!
毎月4万4000円なら、年間にするとですね、えーと
 ・・・・・・
ご、53万円ちょっと。
難病患者が、病気ごまかしながら働いて持って帰ってきた370万円のうちですね、あ、これ、年収だから、手取りはもっと少ないよ、なんでもええけど、53万円は、医療費に問答無用で持っていかれるのですよ。手元に残るの、300万円ないネ…
難病患者がそれだけの年収を持って帰ってこようとすると、相当がんばっているのですよ。よく、難病の人の体力のなさについて、「普通の人の1日は24時間だけど、病人の1日は18時間くらいしかない感覚」という比喩をさせてもらいますけれど、そういう健康な人と渡りあって、健康な人と同じだけの稼ぎを持って帰るのは至難の業なのです。「困ってるズ!」とか「見えない障害バッジ」などを使って、「見えないしんどさに思いを馳せてね」という啓発活動は、まだ緒についたばかり。「お金があるところから取ればいい」…という考え方は最近流行りですが、そこに本当にお金はあるのかい?
 
 
【 ひどさその2 】ていうか、どこからひっぱってきとんねん

なんでこんな二度見、三度見してしまう金額になったのか、というと、「70歳以上の高齢者の高額療養費制度からひっぱってきたから」だそうです。

・・・いや、だから、なんで30歳そこそこの私に、70歳以上の高齢者の医療費制度を当てはめるのか、と。「病気がち」なところが似ている、というのが厚労省の言い分ですが、私たち、「病気がち」じゃなくて、「病気」なんだってば。しかもこれから何十年も生きていかなきゃならんし。

別の制度を参考にするにしても、さっき上げた①から④までの医療費を支援する制度のうち、「いつもは元気な人の医療費助成制度のうち、ちょっと高くなっちゃった部分を助ける」②高額療養費制度と、「慢性的なからだの機能障害を軽くしつつ、自立した日常生活又は社会生活を営むために必要な医療を提供するという障害者の③自立支援医療とだったら、どっちが難病患者の状態に近いか、ということです。
 
 
【 ひどさその3 】子どももですか!?

10月18日から遅れること5日。子どもの難病患者に対する医療費の負担割合も発表になりました。

制度概要(小児)

厚生労働省の資料から引用)

成人の表とほとんど同じ表で、ただ、毎月の負担上限額が成人の半額の2万2000円です。これ、子どもの難病の表ですが、「病気がちなところが似てるから」という理由で、こ、こうれい、しゃ、の、高額、療養費から、もって、もって・・・って意味がわから~ん!!

元「難病の子ども」の私から言わせていただきますが、毎月毎月2万2000円も「そこにいるだけ」で取られていたら、子ども心に申し訳なさすぎて、育つこともできません。年間に直すと26万円ちょい? まぁ、「お受験」して私学に入れることを考えたらアレかも知れませんが、この26万円はそういう「未来への投資」ではありません。「現在の存在を死守するためのお金」です。

しかも、たとえば学齢期にずーっと入院を余儀なくされた子が、後にある程度元気になった時にお金をためて学校へ行き直してなんとか社会へ参入しようとする例もありますが、こんなに生命維持に払わされたら、貯めたはしからお金は出て行ってしまいます。そんな目的で学校へ行く時には無料、などの制度があればまだいいんでしょうけど、はっきり言って今の日本には、「病人」に着目した社会参加を支援する制度などほとんどありません。

・・・と、こんな感じで言い出したらキリがありませんが。
 
 
● マズいところだらけなの!?

普通、制度を「改革」しようというのですから、マズいところだけ、というのも考えにくい話ですよね。

1つめのメリットは、さっき上げた「法制化」。法律上の根拠ができるという、それだけでずいぶんと制度は安定するでしょう。また、「法律に基づく事業」だと、予算を取ってきやすいらしいですよ、オホホ♪

さらに、今回の改正の目玉は、「難病の医療費助成制度の対象疾患がどーんと増える!」ということです。本当にいい改革ですね〜。
さて、どれくらい増えるのでしょう。
ひょっとしたら、「300疾患以上に増える」というお話を聞いたことがある人もいるかもしれません。そういう報道も、ぼちぼちされていますから。

ところが、厚生労働省からは、難病対策委員会があるたびにたくさん資料が出されていますが、そのどこにも「300疾患以上に増やします」とは書いていません。「厚労省が示している、対象とする疾患の条件からいろいろ推測すると、大体300ちょいになるよね」という数字と言われています。要するに、これはまだ、厚生労働省が約束した数字ではないのです。

まさか、全然増えません、ということにはならないでしょうが、まだどれだけの患者が増えるかも分からない、というのが正確なところでしょう。そんな感じだから、今後、たぶん「限られた予算ですので…」などと絞ってくる可能性もあるわけです。そしたら、「あれ?法制化したら、予算はきちんといただけるって言ってませんでしたっけ?」と聞いてみましょう(誰にだ)。
 
 
● そもそも「難病」ってなんだっけ?

さて。ひととおりキレたあとでおさらいです。

「せいどのたにま(中)」の中で、私は、「難病」が法律的にどのような扱いになったと言ったか、いちど振り返ってみてください。
「その他心身の機能障害」として3障害に限られない心身の機能障害が把握され、社会モデルの定義へと変わり、難病だろうが知的障害だろうが身体障害だろうが、すべて「社会的障壁」との関わりの中で「障害」というものを把握すべし、となりました。社会参加しようとするときに「障壁(バリア)」があるなー、と感じたら、それを感じさせた社会の有り様こそが「障害」なのだ、と。「理念を定めただけの障害者基本法とはいえ、このような谷間を感じさせない定義の法律が成立したことは非常に大きなこと」と申し上げました。
 
ところがどうでしょう?
 
この改革案は、病気を持つ人々にとって、社会へ参加しようとする資金も、機会も、意欲も削ぐ「社会的障壁」ではありませんか?
それどころではない、難病の子どもを持つ親は、決して抱いてはならない感情とわかりながら、23日以降、ぽろぽろとこぼしています、「生きていてほしくない、と思ってしまうかもしれない」と。我が子の全存在を否定せざるを得ないほどの、究極の「社会的障壁」が生まれようとしているのかもしれません。

私は、この案が、「これまでの特定疾患と比べて重くなるので反対だ」と言っているのではありません。これまでがどうだったかは一旦わきへどけて、「難病のかかえて生きる人に対するこの国の支援」として、この内容はどうなのだろう、ということを考えていただきたいのです。
 
私たちは、厚労省に、数ある疾病の中、難病ばかり厚く保障すると、「国民の理解が得られない」とずっと、ずっと、ずーっと言われ続けて来ました。

裏を返すと、まるで、「あなた方の支援をすることを国民は理解しないんだ。」と言われているような気がしました。

できれば、もしできれば、「そうじゃない、そんな貧しい支援では、難病患者でも共に生きていけないじゃないか。」と、1人でもつぶやいてくれると、私は嬉しい。
 
 
● おねがい

本稿は、「難病患者の医療費助成制度の対象にしようとする話」なのであり、「制度の谷間の話」ではありません。もちろん、制度の谷間がなくなるべきであることは言うまでもありません。増えるったって、300あるかないか、という話なのですから。

「制度の谷間のない支援」とは、「(支援の)必要な人に、必要な支援を」ということとほぼ同じことを意味します。今回の難病対策の新負担案は、やむを得ず対象を病名で区切った末、その区切った中でも「必要な人に、必要な支援を」できていないのですから、谷間のない支援からは余計に離れていっているとも言えるわけです。

健康な人、ちょっと病気を持った人、だいぶ病気を持った人、すべての人々が、いま一度、「必要な人に、必要な支援を」とはどういうことなのかを考え、これからの推移を注意深く見守っていただきたいと思います。

健康な皆さんの関心と、知恵と、まなざしが、私たちの生きる支えです。
 
 
※ 追記 : 2013/11/02 23:50

 10月29日、厚労省もさすがにマズいと思ったのか、ちょっとだけ「値下げ」をした案を提示しました。
20131130 厚生労働省資料抜粋

厚生労働省の資料から引用)

…な、なんか赤字の「ただし書」がいっぱい増えて、わかりにくさ倍増(当社比)になってるんですけど!

まるで『数年かけて「このへんがギリギリかなぁ」って考えてきたんだけど、こんな表をいきなり出したら反発されるに決まっているから、とりあえず似たような制度の中から一番近いところで高齢者の高額療養費の表を出しといて、そのあとこれ出したら「あ、マシになったかも!」って勘違いしてくれるだろう』と考えていたかのようですね!

今まで3割の医療費を払い続けてきた人にとっては、たしかに楽になる案でしょう。

さて、これが『およそ治りにくい病気』を抱えて生きる人々に対する社会の支えとして、十分といえるかどうか。

あなたは、どう思いますか?
 
 
 

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