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わたフク。航海日誌

難病患者の医療費負担案 ~ そして国会へ(後編)

 
【お知らせとお詫び】

 「前編」を掲載したのが昨年の12月23日。その後、すぐに「後編」を載せる予定だったのですが、なんと筆者も編集者も両方倒れるなどの大惨事が勃発し、まごまごしている間に、ついに「難病法」の要綱が発表されてしまいました。

 本稿は、12月13日に厚生労働省から出された修正案の解説…のはずだったのですが、難病法の要綱では12月案とかなり違うことを言っているので、いきなり要綱のご紹介に行ってしまいたいと思います。
 


編注:
今回の青木さんの記事は、前編(こちら)・後編にわけて掲載しています。

前編
 I 10月29日案(素案)の問題点

後編
 II 難病法案の内容
 III 今後の課題


 

II 難病の患者に対する医療等に関する法律案(通称:難病法案)の内容

 

1 「素案(平成25年10月18日案)」ではひどすぎたので

 めっちゃたくさんの問題点をはらんだ「素案」でした。さしあたり、②自己負担額、③重症度分類、④重症患者の自己負担発生をどうにかしなければ、特に④はそのまま開始されると人工呼吸器などつけてられない(=死んでしまう)ような状態でした。そこで、患者たちは連日永田町と霞ヶ関につめかけ、この方針を変更させうるありとあらゆる人に患者の生活実態と、このままでは死人が出ることを必死に必死に訴えました。

 何回か言ってますが、そうはいっても「難病患者」です。上京するだけで命がけです。いくら、自分の権利を守るためには声を上げることが必要、と言われても、モノには限界というものがありまして、こんな案を出すこと自体で生命を落とす患者が出はしないかと、私は尼崎から1人、気をもんでいました。

 そうしたがんばりの結果、医療費の部分(前編でお話した問題点の2~4の部分)では相当の進展をみて、「素案」ほどのムリゲーっぷりはなくなりました。

 結論として、自己負担額の上限は、この表のとおりになりました。
図1

図2

厚生労働省のページから抜粋)

 と、急に言われても、「私ってこの表のどこ見たらいいの~~~????」となりそうなよくわからない表です。たぶん、患者の負担をギリギリのところまで軽くしようとがんばってくれたのだと思うのですが、その代わりにごっついややこしくなってしまいました。

 しかも、平成26年1月30日に発表された「難病の患者に対する医療等に関する法律案(通称:難病法案)」の要綱を見ていると、制度の対象となる病気の選び方まで、今までの話とちょっと違うことになっています。

 なので、とりあえず「対象疾患の選び方」から順番に、「たぶん、こういうことだろう」ということでフローチャート図を作ってみたので、それを見ながら確認していきましょう。
 
 

2 対象疾患の指定方法

フローチャート1

 この図に従って、上から順番に説明していきます。

 なお、要綱と一緒に厚労省から公表されたスライド資料には、これと異なることが書いてある部分もあります。法案に近いのは、スライド資料よりも条文一歩手前の「要綱」の方なので、原則として要綱から読み取れることを説明し、要綱に書かれていない点のみ、スライド資料に基づくことにします。

(1) 法の対象となる「難病」であること

 まず、この法律が対象とする「難病」に該当しなければなりません。いろいろと難しいことを書いてありますが、ぶっちゃけて言うと

  1. 原因不明(発病の機構が明らかでない)
  2. 治療方法が確立していない
  3. 希少な疾病
  4. その病気によって、長い間療養を必要とすることとなるもの

 という、4つの要素を満たす病気を「難病」といいます。

 厚労省のスライド資料では、「患者の人数などによる限定は行わず、他に国による対策が打たれていない病気を幅広く対象とします」と言っています。

たしかに、去年の案までは、この法律の対象になる法律は、医療費助成の対象よりもひろーく定める、と言っていました。具体的には、「治療方法が未確立で生活面で長期にわたり支障が生じる疾病のうち、がん、生活習慣病など別個の対策の体系がないもの」と、別に「希少な」とは言ってませんでしたけどね。法文の中に「他の施策体系が樹立されておらず…」という文言はありませんし、明確に数を区切ることはしていませんが「希少な疾病」という単語は入っています。

ちなみに、「希少な疾病」という言葉は、小児慢性特定疾患(子どもの難病)の法律案には含まれていないことからも、それなりに意味を持った言葉として入っていると考えられます。

(2) 2つの条件を満たすこと

 去年の12月にここに公開した「前編」では、「難病の対象疾患」の考え方はすでに示されていて、4つの要素を満たすものを「難病」として指定し、医療費助成を行う予定だ、と書きました。その当時はそれで合っていたのですが、どうも要綱を見ていると、要素は2つになっています。つまり、この法律が対象としている難病のうち、

  1. 患者数が日本国内で一定の人数(人口の0.1%)に達しないこと
  2. 客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること

 を、満たしていることが必要になります。②なんて、どの程度の診断基準で「確立」と考えるのか、細かく考えだしたらようわからんので、結局法的に意味を持ってくる要素は、「患者数が人口の0.1%(12万人くらい)に達しているかいないか」に絞られます。

 ちなみに、去年の年末から口酸っぱく「約300疾患に拡大する」と言われているのは、この2要素を満たす病気の数のことです。

(3)第三者機関に聞いてみよう

こうして選ばれた病気の中から、さらに「患者の置かれている状況からみて良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、第三者的な委員会の意見を聞く」ことが求められます。

・・・あれ?去年まで、難病4要素を満たした病気は全部難病指定するっぽいことを言ってませんでしたっけ?とか、ここで絞るなら対象疾患はやっぱり300にならないんじゃないの?とか、人によっては突っ込みたくなるかもしれません。とにかく、法案上は、この第三者的機関で「(その病気が)良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いかどうか」を議論することが、「難病指定されるために突破すべき要件」という位置づけになっています。

しかも、「患者の置かれている状況」を一番よく説明できるのは患者自身、ということになるわけで、結局はこの「第三者的委員会」に向かって、患者たちは少ない体力の中、どこにいるかわからない仲間の患者を探しだして患者会を結成し、資金的にも体力的も過酷な状況の中で第三者的委員会に実情を陳情し…って、あれ?これ、「せいどのたにま(中)」で似たようなこと書いた気がしますよ、私。
 
 

3 支給認定(医療費助成)を受けるための条件

こうしていくつも山を乗り越えて、念願の「指定難病」に認定されたとし ても、またなんやかんやいろいろ条件があって、医療費助成を受けるのも一苦労です。その図が次の図です。

フローチャート2 

(1) 指定難病に指定されること

 まず、自分の病気が指定難病に指定されていることが大前提として必要です。

(2) 「重症度分類クリア」または「月1万円以上かかる月が年3回以上」

 自分の病気が運良く「指定難病」だったとしても、全員が全員助成を受けられるわけではありません。その次に待つハードルが、①全病気に設定される予定の「重症度分類をクリアすること」か、②治療状況が一定基準以上であって医療を受ける必要がある時のどっちかを満たしていなければなりません。②については、なにやら難しいことを法文上書いてありますが、去年の年末に厚労省が、「3割負担で1万円以上支払う月が年間3回以上の人も対象にします!」と言っていたので、これがここの話なのでしょう。

(3) 自己負担表のどこを見たらいいのか

 2つの基準を満たすと、晴れて「指定難病による医療費助成を受けられる」状態になります。問題は、じゃあ自己負担額がいくらになるのよ、という点ですね。

 ここから先のことは、「要綱」には書いていません。去年の12月13日に発表された、厚労省最終案にもとづいてお話します。
原則として、冒頭に上げた表の「一般」の区分が自己負担の上限額になります。所得に合わせて2,500円〜3万円の自己負担(上限に満たない場合は2割負担)となります。

 しかし、それでもやっぱり毎月毎月そんなに負担できないよ、という人もいるでしょう。その場合、「1か月の医療費が(2割負担で)1万円以上かかる月が、年間6回以上ある人」であれば、ちょっと値引きされます。

 さらに、これまでの制度では無償(自己負担なし)で医療を受けられていた重症患者のうち、「人工呼吸器をつけている」人の場合は、所得階層にかかわらず一律1,000円の負担ということになりました。
 
 

III 今後の課題

1 これでよかった・・・のか

 正直な感想として、12月13日に厚労省から出された最終案を見ていると、「予想以上に負担額が下がったな」と思いました。厚労省、議員も非常にがんばっていただいたのでしょうが、患者団体の、比喩でも何でもない生命がけの猛攻が見事に奏功したのだと思います。

 そして、「よかったね」と言ってこれで一件落着と言えるのかどうかは、冷静に考える必要があります。従来の障害者のように年金を簡単にもらえるわけではなく、「症状に波がある」という特性上、普通に働くにも難しい難病患者が生涯負担し続ける金額として、上記の表で本当に大丈夫なのか。私には、まだまだ相当過酷な金額であるように見えます。

さて、最終案によっても、

  1. 病名で支援を区切らないで
  2. 世帯による収入認定
  3. トランジション(子どもからおとなへの移行)
  4. 「権利性」を確認できない条文

はほとんど手付かずのまま放ったらかしです。特に、子どもの難病は別に患者の人数が少なくなくても支援するような法案になっているのに、大人の難病ではどうしても患者数を気にするため、対象となる病気は絶対に違うことから、「③トランジションの存在」は、むしろ固定化するのではないかという気がします。

2 障害者の権利に関する条約

 話は急に変わりますが、新難病医療費の案が出てきたのとほとんど同じ時期に、国会議員全員の賛成を受け、祝福の中で批准承認(国際条約を日本国内でも効果のあるルールにすること)された条約があります(平成26年1月21日正式に批准)。「障害者の権利に関する条約(俗に「権利条約」と言います)」です。この条約は、「障害のある人もない人も平等に生きる権利の保障」を最大の基本理念としています。

 ・・・なんでいきなりこのくだりがでてくるん!?

 それは当然、この条約が、難病患者と無関係ではないからです。

 この条約が考える「障害」の中には、難病などの「難治性疾患」も含みうると考えられており、難治性疾患患者の基本的人権を考える上で、無視できない条約です。

この条約全編に流れる基本理念は、「障害(病気)のある人もない人も平等に生きる権利を保障する」ということです。障害のない人とともに職業人として働き、教育を受け、余暇を楽しみ、地域社会の中で共に生きる権利を国が保障しなければなりません。もし、障害のある人が、障害のない人と共に生きるにあたって物理的、社会的になにか支障があるなら、その「支障」は、国の責任で解消しなければなりません。

ちなみに、要綱の「基本理念」には何と書いてあるかというと…

難病の患者に対する医療等は、難病の患者がその社会参加の機会が確保されること及び地域社会において尊厳を保持しつつ他の人々と共生することを妨げられないことを旨として、難病の特性に応じて、社会福祉その他の関係施策との有機的な連携に配慮しつつ、総合的に行われなければならない。

・・・権利条約から「平等」と「基本的人権」を抜いたような表現ですねぇ。
 

3 「病気のない人」との公平・公正

では、患者にとっての「病気のない人」との公平・公正ってどういうことでしょうか。今回の難病対策制度のように、患者の社会生活にとって、もっとも「支障」になるのが医療費です。病気の症状で社会参加できない場合には社会の力でもどうすることもできません。ただ、難治性疾患の大多数は、完治は難しいにしても、医療の力である程度普通の体調に近づける方法がある場合が多いです。そうなれば、あとは医療費の問題です。これなら、社会でなんとかできそう。

でも、自分が日々「普通の体調で生活する」ために、毎月毎月死ぬまで必ず医療費がかかるとしたら。働けど働けど一定金額は必ず医療費として支出せざるをえないとしたら。そのために、友だちと行く飲み会をキャンセルしないといけないとしたら。

「医療費」は、立派に「病気のない人」との公平・公正の邪魔をする「支障」です。病気のない人との公平を期するのであれば、「希少性」などという小さいことを言わず、すべての難治性疾患患者の医療費を助成するにはどうしたらいいか、と考えなければならないわけです。そう考えれば、成人した途端に助成がなくなる、というトランジションも発生しませんし、制度の谷間もできません。この大改革のタイミングでもどうすることもできなかったことを反省しながら、考え続けなければならない、明日への宿題です。

4 さいごに

 難病法案の成立に向けて、今まで難病患者がホットな社会問題になったことはあんまりなかったと思うのですが、今回の法案を練る過程で、報道や、国会議員などが急激に関心を示しています。ただ、難病患者の生活支援についてまっっっったく考えたことがなかった、というまことに情けない状態です。今回の難病法案作成は、これから難病患者の支援をちょっと考えなきゃ!というきっかけにはなったようです。

 これまで、「患者—厚労省」という二者関係の側面が強かった難病患者支援ですが、今回の騒動をよいきっかけにして、あらゆる観点から多角的に議論が広まればいいなぁ、と思います。

 その営みが、将来「タニマー」を撲滅することにつながりますように。
 
 

(了)

 
 
 

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