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evergreen・ママの気持ち

はじめに

私は神奈川県在住、ぎりぎり三十代、二児の母です。

普通の、というと「普通」の意味が私にもよく分からなくなりますが、多分そこら辺にいるお母さん達と何ら変わりない、ごく普通の子育て中、専業主婦です。

子どもを愛し、成長を喜び、将来を楽しみに。

忙しい日々の中で慌ただしく子育てをしている、皆さんとはそう変わりのない「普通」のお母さんです。

2005年の夏、長男のユウタに病気が発覚しました。

脳腫瘍でした。

手術や入退院をこれまで何度も繰り返してきました。

何とか2度の開頭手術によって目に見える範囲の腫瘍は摘出出来たのですがユウタにとっては大きな代償、後遺症がたくさん残ってしまいました。

絶望したり、希望がわいたり、夢を抱けるようになったり。そしてまた絶望したり。
そんな思いを何度も何度も繰り返しながら、ここまできました。

ユウタの病気発覚から現在に至るまで、色々な感情にゆらゆらと心揺れながら過ごしてきた私ですが、それでもやっぱり思っています。

私は、ごく「普通」のお母さんです。

「スーパー母さん」でもなく、常に前だけを見てポジティブに希望を持ち続けられるような、そして、ガッツなファイトもなかなか継続できない、そういうトホホなお母さんでもありますが、子を思う親の気持ちでは、皆さんと何の変わりも無い、普通のお母さんです。

もちろん、病気のお子さんを力強く支えながら、日々奮闘しているお母さんたちも世の中にはたくさん、たくさんいると思います。

私は決して強くてたくましいお母さんではないのですが、未来に希望を持つ事が出来なくなってしまったり、病気の子どもに生んでしまった、という母親としての罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、我が子の病気発覚の日から、手術、入院治療中、そして退院後は社会復帰を目指し、小学校入学などに向け、力を振り絞って頑張れていた時期もありました。

でも、数年がたつうちに、少しずつ、少しずつ、そんな力がなかなか湧いてこなくなっていきました。

そういうお母さんもいるんです。
「普通のお母さん」の中でも。

私はここへ、希望に満ちた言葉を綴れないかもしれません。
かっこいい事も書きませんし、前向きな気持ちを綴る事は、ないかも知れません。

でも、正直な「お母さんの気持ち」を綴っていこうと思います。
包み隠さずに、本当の事だけを。
カッコ悪い事でもなんでも。

初回なので、まずは患児である、長男ユウタの病気の事を少し書きたいと思います。

(ユウタ)

ユウタは2000年生まれ、病気の発覚当時はまだ4歳でした。

我が家は当初、共働きの生活だったので、ユウタは生後5カ月から保育園に通っていました。元気に園庭を走り回り、真っ黒に日焼けしている子どもでした。お友達とは戦隊物のレンジャーごっこに明け暮れ、時にはお友達とケンカしたり保育士さんに叱られたり、やんちゃっぷりを大いに発揮している腕白な4歳の男の子でした。

(病気の発覚から経過)

ユウタは4歳の時に頭痛と嘔吐をくり返した為、念の為にと受けたCT検査にて「頭蓋咽頭腫」という脳腫瘍が見つかりました。

  • 頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ) craniopharyngioma(クラニオファリンジオーマ)

頭痛と嘔吐の症状は水頭症を併発していた為に起こっていた症状でした。

腫瘍摘出の為に受けた1度目の開頭手術では全ての腫瘍を摘出する事は出来ませんでした。
その後すぐに再燃し、その時もまた水頭症を併発していました。

腫瘍により流れにくくなっている髄液を流しやすくする処置として、すぐにシャント手術を受けました。

5歳の時に2度目の開頭手術を受け、ようやく見える範囲の腫瘍を摘出できました。
しかし2度目の開頭手術後、ユウタは別人のようになって私達の元に戻ってきました。

あの日、あの時、手術に向かう前、この私の腕に抱いていたユウタはもう、どこにもいなくなってしまったような、そういう感覚でした。

もちろん、病気の前のユウタも今のユウタも私達の大切な子供に違いはありません。
しかしとても残酷な言い方ですが、今でも「本当のユウタはどこに行ってしまったんだろう」と、私はあの頃のユウタを心のどこかでまだ待っているのかもしれません。

ユウタの変貌ぶりは家族も病院の医師も驚くほどでした。
脳の視床下部には空腹感や満腹感を感じる神経があるのですが、その部分に損傷を受けてしまった為なのか24時間ひどい空腹感を訴え始めました。
暴言なども飛び出し、病院の先生や看護師さん、そしてもちろん私たち家族に対しても酷い言葉で攻撃してくるようになりました。

とにかく空腹、そこから生じるイライラ感、思い通りにいかない事に対する感情の抑制力も全く無いような状況でした。
ぐったりと元気もなくなり、ベットから起き上っている事も出来ませんでした。

記憶障害もあり、新しい事を覚えられなくなってしまいました。
自分の名前も書けず、箸やスプーンさえも持つ事が出来ませんでした。

何をしてもすぐに疲れてしまい、泣くか怒っているか、寝ているか、そんな状況が長く長く続きました。

すっかり笑顔も消え、その代わりにいつも怒っていて、いつもお腹がすいていて、いつも大きな声で罵倒を繰り返し・・・。
優しくてかわいくて、元気だったユウタは、もういなくなってしまいました。

その後、3か月の入院生活で日常の生活に戻る為のリハビリを受け、何とか退院しましたが、それは一つの節目だけであり、「病気が治って良かったね!おめでとう!」という事ではありません。

ここからが、本当の闘いの始まりでした。

(現在のユウタの後遺症)

病名としては以下の通りです。

  • 汎下垂体機能低下症。
  • 尿崩症。
  • 体温調節障害。
  • 枯渇感欠乏。
  • 視床下部性高度肥満。
  • 器質性のナルコレプシー。
  • 中枢神経系の慢性頭痛。
  • 高次脳機能障害。
  • 大腿骨頭すべり症。

(現在服用中の薬)

  • チラーヂン (朝のみ)
  • コートリル (朝、昼、夜)
  • デパケン (朝、夜)
  • アナフラニール (朝、昼、夜)
  • コンサータ (朝)
  • トピナ (朝、夜)
  • エビリファイ (夜のみ)
  • 成長ホルモン (夜・自己注射)
  • デスモプレッシン (夜・その他、効果が切れてしまった時。点鼻薬)

汎下垂体機能低下症とは、脳下垂体から分泌される全てのホルモンが自力では出なくなってしまう事です。
ユウタの場合は下垂体へホルモンを出すよう指示を出す脳の司令塔(視床下部)を大きく損傷してしまったので、様々な後遺症を残す事になってしまいました。

視床下部性の高度肥満に陥りましたが成長ホルモン使用後から少しずつ肥満は解消されていました。しかし、頭痛対策の為に始めた薬による副作用で再度体重が増加中です。
どんなにカロリーの制限をしていても、体重増加を止める事が出来ません。

7歳の時に下垂体機能低下症の影響からと思われる「大腿骨頭すべり症」という足の病気になりました。(両側)ユウタの年齢では珍しい病気です。
ステロイドを使用している事や、高度肥満によるものだろうとの診断です。
両足の大腿骨部分にボルトを埋める手術を受け、リハビリの為、こども病院に併設してある肢体不自由児施設に約半年間入院しました。

慢性的に続いてきた頭痛と傾眠傾向にについては、その一つの原因として「器質性のナルコレプシーという病気の可能性によるもの」との診断を受けています。
ナルコレプシー(睡眠障害)も視床下部の影響によるものです。
日中、学校で授業を受けていても、どんなに楽しい事をしていても、すぐにうとうとと眠ってしまうのがナルコレプシーの症状です。
このナルコレプシーによる傾眠発作は、コンサータという薬により落ち着きましたが、頭痛は現在も毎日続いています。

長期にわたって続いている慢性頭痛は開頭手術時に中枢神経に傷が付いてしまった為との診断で、現在この頭痛をとる為の薬を色々と試しながら量なども調整しています。

また、頭痛と共に苦しんでいるのは、手術後から続いている空腹感です。
手術直後の24時間続くような空腹感ではなくなりましたが、日中はやはり常にお腹がすいたと訴えています。とにかくお腹がすいています。

満腹感をコントロールする視床下部損傷の影響や、欠かすことなく服用しているステロイド、そして様々な薬の副作用により、ユウタの肥満度は「高度肥満」に達しています。
ですから、本人の欲するままに食事を与え続けるような事は出来ません。
このままどんどん体重が増えてしまうと、足にも負担が余計にかかってしまい、大腿骨の手術を受け直す事にもなりかねませんし、体の重さにより体を動かす事が困難になり、そうすると筋力も落ちてしまいます。将来自分の力で歩く事も出来なくなってしまう、といった事にも繋がってしまいます。
ですから、どんなに空腹でも、おやつや普段の食事にも管理が必要です。

そして。

ユウタ本人も多分1番辛く、そして家族にとっても最も悲しく、受け入れがたい障害が高次脳機能障害です。
感情を抑える事が困難で自傷行為や暴力行動をたびたび起こしてしまいます。

手術後に人が変わってしまったように暴言を繰り返していたのも、この高次脳機能障害によるものなのだと、後になってから私たち家族は、やっと理解しました。

「わがままである、ただの甘え、我慢が足りない」

などと、ユウタを叱りつけてきてしまった日々を私達は大変後悔しました。

高次脳機能障害。これは誰かが教えてくれたものではありません。
どうしてこんなに感情の抑制が出来なくなっているんだろう。どうして別人のように変貌してしまったんだろう。
あの頃の、手術を受ける前のユウタはどこに行ってしまったんだろう。

ユウタの病気の事を知る為に、調べ続ける日々は続きました。
調べ続ける中で、高次脳機能障害という症状の一つに辿りつきました。

日々の中で続く、空腹感、頭痛、倦怠感、感情の抑制が出来ない事。
その中でも、感情の抑制が出来ない事により、家族の抱える日々の苦悩や悩みについては次回、書かせて頂きます。

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