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映画 「ジョニーは戦争へ行った」

 
シリーズ: シネマとフクシ(3)
「ジョニーは戦争へ行った」
1971年(アメリカ)
監督:ダルトン・トランボ

 

〈姓名不詳重傷兵第407号〉

舞台は、第一次世界大戦。
中西部コロラド州の靴屋の家庭に生まれ、従軍し、負傷した「平凡な」アメリカ人青年の姿から画はスタートする。

彼の名前はジョー。ヨーロッパの前線で両手足を失った。顔の損傷が大きく、目も、鼻も、耳も、口も失った。脳は一部を損傷している。
視覚、聴覚、嗅覚、そして意思を発するための重要な手段である「声」を失った。

しかし彼は「正気」である。主人公のジョーは、コロラドにいたころと何も変わってはいない。
ジョーは軍の病院の一角、窓を閉め切った病室に隔離され、延命措置の継続によって生きている。

こんなふうに書けば、「ああ、植物人間の話か」と想像はつく。
 
〈モノローグ〉

優秀な看護婦は患者に感情移入してはならない。

そうなることを避けるために―脳を損傷した人間は痛みも喜びも―記憶も思考もないと肝に銘じること。
つまり、この青年は死が訪れる日まで、死者と同じように感覚も感情もないのだ。

 
〈ジョー〉

助けてくれ、奴らに脚を切らせるな。僕の脚を切らせないでくれ。

何てこった、彼らは何もかも切り落とした。治療するより切る方が安い。
戦争中は、誰もかれも忙しい。
みんな疲れてる。

こんな状態で患者を生かしておく医者がいるか?
賭けをしてる?技術を誇りたい?何かの実験?

違う。

こんなことをする権利はない。こんな残酷なことを。

 
〈プロフェッサー〉

生徒諸君。

戦争は様々な人間に多様な価値をもたらす。
科学者にとって ― 戦争は創造力あふれる ― 輝かしい研究を達成する願ってもない好機だ。

たとえば従来の戦争では、負傷兵は税金の莫大な損失をもたらしていた。
巨費を投じて訓練した兵士や―戦闘部隊を失うのだ。
だが次の戦争では同じ戦闘部隊を、3週間足らずで修復して、丸ごと最前線に送り返すことができる。

科学技術の革新がそれを可能にしたことを、この青年が教えてくれた。

 
見るからにコワモテ、将校も震え上がるような婦長が、彼を変える。

「彼は何もわかりません」

と周囲はみな言うが、婦長だけはジョーの看護体制に対して違う意見を持った。

「わたしにはわかる。窓を開けて」

婦長は、閉め切った病室の窓を空け、外の光を病室に入れる。
そして毛布を敷きっぱなしだったベッドのシーツを交換し、放置したままの身体を清拭するようようにする。

ジョーは、光をその温かさによって感じとる。昼夜がわかるようになる。
シーツの交換と清拭の頻度で、時間を数えるようになる。
 
 
さらに、彼を決定的に変える存在が登場する。
ナイティンゲールの体現者であるかのような、「新任」の看護婦が、ジョーの病室の担当に就く。
年若い彼女は、ジョーをおそれず、看護の鉄則にのっとって、注意深く観察する。
 
 

「経験を積んだ観察者が個人の家庭および公共の病院で病気を注意深く見ているときに強く感じるのは、その病気に避けられないよくあることと一般的に考えられている症状あるいは苦しみは、その病気の症状などではなく、全く別の何かによるものである――新鮮な空気の、光の、暖かさの、静かさの、あるいは清潔さの不足、あるいは不規則な食事時間あるいは世話の不足、そのいずれか、あるいはすべての不足によるものである」

(『看護覚え書き』フロレンス・ナイティンゲール 1859年)

 
暖かい日差しが差し込むある日。
彼女は、動けぬばかりか何も発せないジョーの身体を、ベットごと動かして窓際に移した。
ジョーは、”Sun”を感じとる。
 
「彼は何もわからない」と主張する周囲の見解とは、彼女は違う見解を持った。
「彼は何もかもわかっている」ことを、慎重で注意深い観察によって発見するのである。
 
ジョーが頭をわずかに動かすと、それは「反射運動だ」とされて、スタッフは鎮静剤を打つ決まりになっている。
ジョーは動く、”Help me”と伝えるためだけに。
唯一動く頭を使って、モールス信号を打ち続ける。
 

いやだ注射を打つな、意識がなくなる。
君たちに話したいんだ。
神様、彼らを引き止めて。
僕の心の小さな考えを、彼らの心に伝えてください。
こんなにそばにいるのに。

 
そして彼は、モールス信号を使って、周囲とコミュニケーションをとるようになる。
「きみの望みは?」と訊かれて、一瞬考えたジョーは、自らが「役に立つ」ための方法を、2つ考えて提案するのだった。

わたしだったら、ジョーに伝えるだろう、「ジョー、カーニヴァルの案を試してみよう」と。
 
 

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大野更紗

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