『スナックさらさ』の今夜のお客さまは…せちろうくんの巻
●難病とTwitter
Twitterというのは不思議なもので、広い世界にアクセスしているようでいて、実は限られたものしか見ていなかったりもして、でもふいに突如出会いもあったりして、要はやはり「ツール」なのだとおもう。
インターネットは一見ひらかれているように思えるけれど、実は人間はそんなにたくさんの情報を処理することはできない。自分が見たいものを見るし、結局、類は友を呼んだりする。人類は、そんなにたいしたことはできないからこそ、道具に夢を抱くんだろう。
これまで声を発する場所がなかった難病患者にとっては、いや、何事も一般化するのはよくない、わたしにとってTwitterは重要な「ツール」だ。道具だからメンテナンスもしなくてはならないし、道具に使われたり振り回されたりしないように気をつけなくてはならないけれど、ともかくせちろうくんと知り合えたことは、「驚き」だった。
せちろうくんは、難病大学院生だ。発病以来ずっと休学中、籍とロッカーはまだあるものの(たぶん)いつクビになるかもわからないわたしと違って、ちゃんと研究をしている。わたしは、彼から教えてもらうことばかりだ。
せちろうくんにフォローしてもらったきっかけは、もう忘れてしまった。まだ入院しているときだったと思う。最初は女なのか男なのかセクシャルマイノリティなのかもわからず、とりあえず難病で大学院に行っている、という情報のみ。難病と一言で言っても千差万別、とりあえずわたしが罹患した自己免疫疾患系の人ではなさそうである。でもともかく、「そんな人がいるんだ」と素朴に驚いた。巨人ファンだとプロフィール欄に書いてあるのを見て、わたしはレッドソックスかヤクルト派だから敵対したらどうしようかなと思った。
いろんな役に立つ本を教えてもらったり、福祉関係の情報をシェアしたり、「戦友」という感じ。
●すごいぞ!せちろうくん
『困ってるひと』のweb連載がはじまって、つまり知り合ってから数か月以上が経過してから、だいぶお互いこなれてきてから、おそるおそる聞いてみた。
「東京に住んでる?」と。多少の無理をしてでも、この人にはどうしても会わなくては、と思った。
初めて彼に会ったとき、
「すごい!」
とこれまた素朴に驚いた。
なんたって、喉にカニューレさしたまま(いや、人工呼吸器ユーザーだから当然なのだが)、電動車いすでピューッと風のようにあらわれた。カニューレささってるので、あんまり声が出ない。たくさん喋ると普通に喉から血が出たりする。わたしもたくさん喋ると普通におしり洞窟から元おしり液体が出てきたり熱が出てきたりする。
「みんな、いろいろ出てきてたいへんだな…」
そのころのわたしは、在宅生活にも全然慣れず苦労しっぱなしで、泣いてばかりの暗中模索、何もかも怖かった。
「死にたいと思ったこと、ある?」
まず彼に、それを聞いてみたかった。
「へ?ないね。まったくない。」
これが、ベテランとビギナーの差なのだろうか…。
いや、そういう問題ではない気がする。
しかしせちろうくんは、ちょっとアナログなところもある。なにせ巨人ファンだ(注:偏見です)。難病なら携帯はぜったいにiphoneを持たなければ生きてゆけないぞと洗脳するのに、数か月間を要した。Skypeを導入させるのに、数日間を要した。変なところで石橋を叩いて渡る。
「戦友」は互いに超具合が悪いので、打ち合わせもままならない。
下手に無理して打ち合わせようとすると、その用件を果たす前に、両者ゆきだおれる可能性が高い。
まあしかし、ナンというか。
そんな感じで「新型」タッグは邂逅を果たしたのである(どんな感じやねん)。
●スナックさらさ(たまに営業中)は…
人類の限界水域をヨロヨロする日々のなか、電柱にぶつかるように出会ったナンたる訪問者たちの不可思議さを、てきとうに綴る超不定期連載です(たぶん)。