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訪問看護 Body & Soul

わたしと仕事のお話

 はじめまして、こんにちは。

私の名前は原田三奈子。ただいま43歳。5歳児の育児、両親の介護をしながら「訪問看護師」として働いている。あ、忘れてましたが、育児だけでなく9歳年下の旦那の育夫も(こいつが一番難航している・汗)しながら、なんとか毎日やっている。さらりと書いてしまえば「ふ〜ん」て、感じであろうが、これ、かなり大変なのだ。高齢出産で、育児、介護、仕事、おまけに育夫!毎日が激動なの。おまけに不整脈や頚腕症なんて持病も年齢なりにしっかり持っている。でも、典型的な「関西のおばちゃん」の私は、何でも「まあ、えーわ、しゃあない」って感じで、楽観的に適当に手抜きしながら、なんでも楽しんで乗り切っている毎日。

訪問看護師とは、何か? 巷では訪問看護師って知られているのだろうか? よく分からないのだが、とりあえず説明をしておく。訪問看護師とは病院の看護師と違って家で病気や障害を持って過ごされている人の家へ看護師が訪問して、イロイロな看護(医療処置、いろんな看護ケア、リハビリ、療養指導、生活指導など)をさせていただくお仕事である。病人の家に看護師が来てくれる、医師でいえば往診と同じようなものだ。

毎日他人様のお家に上がらせてもらい、その患者さんの生活に合わせた療養を一緒に考えながら看護を展開していく。もう、この訪問系の看護の仕事に関わりだして20年弱。患者さんは主に成人~高齢者が対象で、それはそれはたくさんのお家に訪問させていただいた。お城のようなお家から、ホームレスの方のようなバラックに住まれる方まで様々な文化、経済状態、家族状況、そして様々な病気を看せていただいてきた。

患者さんはみんな自分が病を負っているので、とても優しい人ばかり。たまに偏屈ジジイや偏屈ババアもいるが、ちゃんと話し合うと、みんな根はとても優しい心を持っている。人と人はつながっている限り、いつかは分かり合えるんじゃないかと信じている。

毎日の訪問看護の仕事、家事育児、両親の介護、疲労が重なると顔を出す持病、多忙な毎日の中で、私の目で見た事や心に感じた事、私の周りのいろいろな出来事をぜひ皆様と分かち合えたらと思う。

とまあ、前置きが長くなったが、それではさっそく本日の訪問のはじまりはじまり〜!!。

今日はある患者さんを訪問すると「あんた、旦那と何かあったやろ」と言い当てられた。実は昨夜から夫と大げんかの果てに心は荒みきっていた。でも、そんな事はおくびにも出さずに仕事をするのがプロの看護師魂!なのになんだ、このじーちゃん、毎回人の心を見抜いていて。難聴でほとんど聞こえなくて、鬱病で全く外出できない80代のじーちゃん。ピピピと働くのは第6感?なんだか親友になれそうな予感。背中に入れ墨を背負っており、左手の小指がない。

実はこのおじーちゃん、鬱病で、年がら年中ふさぎ込んでいる。訪問するとドアの鍵はいつも開け放している。チャイムの音が聞こえないからドアはいつも日中施錠はしないという。玄関に入り短い廊下を抜けて市営住宅のとても狭いリビングから寝室へと入っていく。彼はベッドに横たわっている。耳が聴こえないので、そっとそばに寄ってトントン、と肩を叩くとやっと訪問した事に気付いてくれる。そしてベッドからノッソリと起きてきて、ちゃぶ台の前にあぐらを組む。彼はパイプにタバコをセットして部屋に煙が立ち上る。そして私が耳元に口を寄せて、「今日はどないぃ~?調子はどおぉ~?」と大きな声で聞く。すると、眉間にしわを寄せて「あかんわ、いつもと同じや。わしはもう一生治らん。耳も聴こえんし、外に行く気がせん。ずっと同じ事や」と答える。毎回そこから会話の入り口。そして体温や脈拍、血圧などを測定し、薬は飲めているのか?食事が摂れているか?睡眠はとれているか?排泄は正常か?などを問診していく。顔色や表情も観察し、衣類や体が清潔に保たれているか、部屋の中も不潔になっていないかをチェックする。こうして療養生活がきちんと保たれているかをチェックしながら、日常のいろいろな出来事の会話がなされていく。

この好々爺の患者さんにはいつも、話が進むにつれていつも私の心を見抜かれる。そして「あんたを朗らかな気分にして帰してあげたい、それがわしにとって、うれしいことやねん」という。この不思議なじーちゃんは、いったい何者なんだ。自分の鬱病は治せないけど、人を朗らかにしてあげたいなんて、どっちが看護されているかわからないよ。「わしはな、子供を4人育て上げた。嫁ともいろいろあった。わかるんや、あんた、今、大変やろ」、自分の人生を語りながら一生懸命に私を励ましてくれる。

未熟で心が狭くて夫に腹をたててツイッターで愚痴りまくっている愚かな私(恥)に、しあわせな温かい気分を取り戻してくれたのは、すごく厳しい経済状況の中、難聴と鬱病に苦しむ80代の彼だった。語るまなざしはいつもとても優しい。 いつか彼が外出できるようにメンタルサポートしていくのがこちらの目標だ。

突然、会話の途中で「あんた、ねむたいんやろ」と、私の寝不足も見抜いて、また私を驚かせる。内緒だけど寝不足で必死で眠気とも戦っていたのだ。寝不足などおくびにも出さないはずの看護師魂がまたもや打ち砕かれる?なぜ?何故?バレテしまった?(滝汗)。彼はニコニコしながら、自分のベッドを指差して、「少し寝て帰り」、と言ってくれた。「わしな、同意がないのに襲ったりせーへんから大丈夫」とかって笑わせてくれるし。もちろん訪問中に患者さんのベッドで寝たりしないけど本気で私を心配してくれている優しさが心にしみた。

時々、思う。私、自分が癒されるために、この仕事をしているんじゃないかって。

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原田三奈子

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