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Nothing about us, without us!

番外編: せいどのたにま(上)

 
ご無沙汰しています。

連載が終わって「やれやれ」と思ってぼーっと自分の原稿を眺めていたんですよ。そしたら、「私、なんでこの連載頼まれたんだ?」という、非常に根本的な問いにぶち当たったんですよね。だって、この訴訟は、どちらかというと「見えてる障害」の方々が当事者だったわけで、「見えない障害」を応援する「わたしのフクシ。」のコンセプトとは若干ずれるわけです。

そこで、「この訴訟と『見えない障害者たち』とをつなぐ話がどこかで必要なんじゃないか」と気づき(いや、最初から気づいておこうよ)、編集作業で忙しいくまくんに「たのむ、もう一本書かせてください。」とジャンピング土下座でお願いして、この「番外編」発表の佳き日を迎えられました。

番外編のくせに難しいです。
眠れぬ夜にこれを読んだらすぐに眠れ・・・ あーっ! 寝たらアカン!
 
 
1 「制度の谷間」はどこにある?

「Nothing about us, without us!」の冒頭ページで、私のことを紹介している文を見てみましょう。なんて書いてありますか?

~ 自身も「制度の谷間の住人」である兵庫県の弁護士、青木さんが話してくれます。

そんな細かいところまで読んでくださっている奇特なあなたは思ったはずです。

「制度の谷間」ってどこだ?
兵庫県って書いとるやん。兵庫県に住んでるんと違うん?
 
第1回「はじめに」で書いたとおり、私は下垂体機能低下症という疾患を持っています。要するに、身体全体のバランスを整えるホルモンが複数分泌されていません。

そのため、不定愁訴レベルのだるさ、めまい、頭痛など、年のうち過半数の日でぐったりしています。それでも弁護士をしているわけですから、家に帰ってきたら、即☆ベッド直行なわけです。そうすると、家事全般ほったらかしになることはある程度やむを得ないと思っています(ちゃんと週末には帳尻合わせてるよ)。

ここで、ホームヘルパーとかお願いできたら、夢のようじゃないですか。私が障害者だったら、障害者自立支援法によって国費でヘルパーさんをお願いできるわけです。しかし、私は、障害者自立支援法が福祉サービスを提供する対象となる「障害者」じゃないので、そんなこと申請する権利すらないのです。
 
私の疾患だと、ユルすぎてイメージわきづらいですか~。そうですか~。
では、最近「困ってるズ」で投稿された、高櫻さんの場合はどうでしょうか。
彼は線維筋痛症という疾患を持っています。彼の言葉を借りると、

「 皮膚が火傷をしているような感覚、刃物がさくっと皮膚に入ってくる瞬間のゾワッとする感覚、万力ではさまれているような感覚、筋肉が肉離れを起こしている ような感覚。突然、アキレス腱などの健が切れたり、神経をはさみでバチンと切られてしまうような発作的な激痛など、痛みの性質(表現)の全く異なるもの が、常に混在しています。 」

おいおい、この状態でどーやって1人で生活するねんな! と思うでしょう?
でも、彼もまた、障害者自立支援法がサービスを提供しようとする「障害者」に含まれていないので、結局自力でたくましく生きていってください、ということになります。

なんでこんなむごいことになっているのかというと、障害者自立支援法が、「障害者」を、「身体障害者」と「知的障害者」と「精神障害者」だけに絞っているからです。

なんとなく、私の下垂体機能低下症も、高櫻さんの線維筋痛症も、身体の具合が悪いのだから身体障害者に入りそうなイメージがあるかもしれません。が、法律がイメージしている身体障害は、「目が見えん!」「耳が聞こえん!」「手足が動かん!」などなど、わりとわかりやすい障害です。

最近でこそ、ペースメーカーを入れている人や、透析を受けている人、HIVの方など、いわゆる「病気」としてイメージされてきたものも含まれてきています。しかし、原則として「ザ・障害」みたいなところしか対象にしていないので、「だるい」「痛い」といった事情で思うように動けなくても、福祉サービスの対象とはならないのです。

若ければ、介護保険法の対象にも入りません。
本当に1人の力で生きていかないとどうしようもないのです。

これを、国のうっかりで福祉サービスの制度的保障から漏れて、谷底へ転落してしまっているイメージから、「制度の谷間」の問題と呼んでいます。私みたいな人を、「制度の谷間に落ち込んでいる人」などという言い方をしますが、長い上に漢字が多いので、以下、「タニマ―」と呼ばせていただきます。
 
 
2 タニマ―と、障害者自立支援法違憲訴訟

タニマ―にとって、障害者自立支援法違憲訴訟は、まったく関係ない話です。・・・なんでかわかりますか?

この訴訟は、そもそも障害者自立支援法で福祉サービスを利用している障害者たちが、「自分たちが生きるために避けては通れない制度利用を『利益』ととらえ、負担を強いるとは何事か」ということで国を訴えた訴訟でした。つまり、原告は全員(負担はさせられているにせよ)福祉サービスを受給することができる「障害者」なのです。

これに対してタニマ―たちは、障害者自立支援法の土台に乗ることすらできない人々ですから、応益負担以前の問題です。だから、当然71人の原告の中に、タニマ―は1人も入っていません。

ところが、「きゅうてんちょっか」、この訴訟はタニマ―たちにも大いに関係することになりました。そう、「基本合意」です。
「基本合意」中、「新法制定にあたっての論点」と題し、新法を作る際に重点的に克服すべき問題点が6つ挙げられています。6つしかないので書きだしてみましょう。

 1 利用者負担のあり方
 2 支給決定のあり方
 3 報酬支払い方式
 4 制度の谷間のない「障害」の範囲 ← あっ!
 5 権利条約批准の実現のための国内法整備と同権利条約批准
 6 障害関係予算の国際水準に見合う額への増額

この検討事項をまとめるとき、当初、ありとあらゆる種類の障害当事者たちが、あれもこれもと詰め込もうとしたために、基本合意第1案は膨大な分量になって「どないすんねんな、これ」みたいなものだった、と聞いています。その中からバッサバッサと切りに切りつづけ、ようやくまとまったのがこの6つです。そんな、選りすぐりの検討事項の中に、しっかりと「制度の谷間のない障害の範囲」と記載されているのです。

おお、国が約束する公文書の中で、制度の谷間をなくす、と約束されているじゃないですか。たしかに、タニマ―から原告は出ていませんが、ここで初めて、この訴訟は、タニマ―たちにとって大変重要な事件になったのでした。
 
 
(次週に続く)
 
 
※「疾患もち」と「難病」

タニマ―の代表格は、一般的には、「難病患者」と言われています。ただ、この「難病」という単語は非常にいろいろな意味を持っているので、玄人さんの場合、その意味を汲むのに苦労されるだろうと思います。①世にも稀なる患者数の少ない病気、②治療法が全然ようわかってない病気、③国が『この病気は研究費を助けたらんとアカンやん』と扱っている病気、④国が『この病気は治療費も助けたらんとアカンやん』と扱っている病気、さて、この4つのうち、どれを「難病」というのでしょうね。厳密に注釈入れていくと、わけがわからなくなります。

さらに、「難病」と言われてしまうと、「世界の中心で愛を叫ぶ」のように、今にも死にそうな印象です。私は、それが好きではありません。だって、私は全く死にそうではないですから。なので、あえて「難病」という単語を使用するのを避けています。

ちなみに、私が「疾患」という場合は、②のイメージで使っています。あまり患者数が少ないことはそれほど意識はしていません。生活上の困難が生じる点において、患者数は関係ないからです。
 
 

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