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あたらしい風

あるお父さんの手記 ~「おとうさん特集」より

 
今回の記事は、あたらしい風の会さんで初めて行った「お父さんアンケート」のときに寄せられたお話しです。

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あるお父さんの手記
117号(2013年1月30日発行)~「おとうさん特集」より

あまりはっきりとは覚えていないのだが、確か一歳半健診が終わった頃だと思う。
妻が「この子(娘)、言葉が遅いみたい」と漏らしていた。
確かに、二歳上のお兄ちゃんと比べると言葉も動作も何か違うようだ。
もっとも僕は、子供によって成長スピードに違いはあるだろうし、これも個性なのかな、的に、「あっそう」程度に答えていたと記憶している。

妻はその後もずっと気にしており、いつの間にか、どこそこのなんとか「教室」にかよわせると言う。
発達が遅れている子供たちのための教室らしいが、まるで、母親自らわが子を「特別な教育の必要な子」とみなしているようで、むしろ腹が立った。
だったらしっかり見極めてやろう。
妻の行動に反抗するかのように、発達に関する市販の本を読みあさったり、公開セミナーに顔を出したり、少し専門的にまとまって勉強をしてみたりもした。

たぶんその頃の僕は、「この本にはこう書いてある」「この基準に当てはまらないから、正しい(あるいは間違っている)」みたいなことを言っていたのだろう。
少なからず口論もした。
今思えば妻が言うことはもっともで、活字よりも現実のわが子に目を向けるのが必要だったのに、見ようとしていなかったのだ。

そんな頃に、保育園で見た子供たちの絵の展覧会は少し印象に残っている。
他の子がお父さんかお母さんか、少なくとも人の顔とわかる絵を描いている中、娘の絵といえば、顔はおろか、丸も十分に書かれていない。
抽象画と言えば多少はかっこ良いのかもしれないが、どうみても手にしたクレヨンをそのまま動かしただけだった。

大きな転機はやはり小学校入学の時だった。
特別支援教室。
娘は本当に支援が必要なのか、ひょっとすると通常学級でも、いずれ勉強や運動もみんなと同じぐらいになるのではないか。
少し言葉(単語)が足らず、やんちゃだけれど、これも個性の範囲だろう。
特別支援教室に通うことでいじめを受けたりしないだろうか?
田舎の祖父母にはなんて説明する?
お兄ちゃんはどう思うか?
近所の人は?

そんなしょうもないことを考えていたが、本音では自分自身が納得いかなかったのだ。
葛藤しているのは娘本人ではなく、自分自身だった。

それに気がついた時、幸いだったのは、娘が一番通いやすい環境ってどんなところだろうか、と立ち戻れたことだ。
無理してついていくよりも、少しゆっくりでもいいじゃないか。
少なくとも、学校に行きたくなくならない環境が一番良いだろう。

これまた幸いなことに、娘が通う学校は、当時の校長先生から特別支援学級の先生方まで、予想以上にきめ細かい支援、指導をして頂き、入学来結構楽しく通っている。
もっとも、あいかわらず妻はいろいろと苦労しているのかもしれないが、少なくとも僕が見る限り(見える限り)、その日の出来事を話してくれたりする娘はいつも楽しそうなのだ。

最近まんがも読むようになった。
言葉も遅く、心情を読むような国語も決して得意ではない娘も、笑うツボは外してないらしい。ドラえもんが大好きで、よくケラケラと笑いながら読んでいる。
小学四年になってようやく絵本の世界から(でも、あくまでもマンガだけど)、少し広がったようだ。

つい気になって「どこが面白い?」などとアホな質問をしてしまう。
娘は多少どもりながら、繰り返しながら、一生懸命に面白さを伝えようとしてくれる。
ゆっくりだけど、確かに成長を感じる時でもある。

心配性な僕は、時々「大きくなったら何になりたい?」などと、またもやくだらない質問をしてしまう。
娘の答えはいつも即答、「まだ考え中」。

もう少しゆったりと子供を見守ってやらなくてはならないのだとわかっているのに、四十歳を過ぎても迷いまくりのそんな僕には、実は「大きくなったら何になりたいか」の答えがある。
それは「花嫁の父になりたい」だ。
娘の結婚式で大酒飲んで、大泣きして、いっしょに祝ってくれる人全員に忘れられない結婚式(の親父)になることだ。

何が正しくて、何が間違っているかなんて、やはり基準は無いのだろう。
個性だからと言い訳する必要もない。
等身大の娘と、等身大の父であることしかない。
そしてそれをすっかり会得している妻とお兄ちゃんに、驚きと感謝をしている。
(あまり口には出さないが・・・)
 
 

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